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社員に優しい経営 働きやすい会社
万協製薬株式会社 社長 松浦信男氏インタビュ-

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20年で売上げ100倍。
「人に必要とされる会社」の秘密とは?
ユニークな経営の原点。

三重県の山間部、多気町にユニークな経営で注目されている「万協製薬株式会社」。スキンケア製品の企画・開発・製造が主な事業です。今回、代表取締役社長の松浦信男様にお話をお伺いすることができました。もともと神戸市長田区にあった同社は、阪神大震災をきっかけに全てがゼロに。1996年から現在の三重県多気町に拠点を移し、右肩あがりで業績を伸ばされてきました。震災時にどん底を味合われた社長は「人に必要とされるという方向に、生き方と経営の仕方をシフトした」と、著書『人に必要とされる会社をつくる』で明かされています。その後20年で売上げを100倍にしたという驚異的な数字とともに、社内外での様々な取り組みは「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」など各マスコミでも取り上げられています。

インタビューをさせていただいたのは、万協製薬の先代の社長である松浦社長のご尊父様でいらっしゃる松浦太一様の告別式の翌々日。このような時にインタビューを受けていただけたのは、あえてこの時期に話すことで「いつもとは違う話ができるかも」と感じられたからだそうです。

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入社3日目に、社長交代宣言。
「誰かの意見をなんとなく受け入れて、不幸になることは避けたい」

菅生:大変なときに、ありがとうございます。私はいつも社長のメールマガジンやfacebookを拝見させていただいているのですが、そのなかでお父様がお亡くなりになられる数日前に「私には欲もなければ、徳もない」とおっしゃった話が書かれていましたが、それは御社が掲げられている万協フィロソフィー(※松浦社長が社内外の人々と意見交換を行うなかで生まれた独自の哲学を、フィロソフー〜11の思考指針〜としてまとめたもの http://www.bankyo.com/philosophy)にも関連するのかなと感じました。お父様は社長に対して素直になれなかった部分もあるのかなと思いましたが、いかがでしょうか?

松浦社長(以下、社長):そういう人でした。僕の口からそういうことを言うのは、あまりよい礼儀ではないですが、僕というような人間を子供にもってしまった辛さですよね。何をやっても圧倒的に僕の方がうまくいく。父の会社に入社して3日目に、父には「僕はもう会社のことが大体わかったから、僕を社長にした方がいいよ」と言っていたぐらいです。

菅生:それは、阪神大震災の前の会社ですね。

社長:そうです。父からしたら、そんなことあり得ないですよね。今でもそうですが、20代の頃はもっと偉そうにしていました。ただ僕は父と一緒に議論がしたかったのです。例えば雪山で遭難したときに、ひとりで遭難するのと、二人で話し合いながら支え合っているのと、どちらが気持ち的に楽か想像するとわかりますよね。すごく相談をしたかったのですが、父は35歳も歳が離れていましたし、兄弟からも「おまえは偉そうだ」と言われ続けていたようにうまくいきませんでした。僕としては一生懸命考えたことを言おうとしていたのですが、その表現がうまくなかったのか、父とは会えば喧嘩をしているような状態でした。阪神大震災の後に三重県に会社を移したのも、あえて父が来にくい場所にしたかったという気持ちもありました。震災を経て、「とにかく一度自分の思い通りにしたい」という気持ちが強かったのです。ゴミ箱の位置でさえも、自分で決めたいと思っていました。全部自分で決めてダメになるなら納得はいくけれど、誰かの意見をなんとなく受け入れることで不幸になることは避けたいと思ったのです。

長期的な視野で、人生を幸せにしたい。
押しつけではない、人の育て方を模索すること。

菅生:万協フィロソフィーもそうですが、社長が世の中を見られる視線は独特ですよね?

社長:僕や、僕の妻(※慶子氏。万協製薬の専務であり、多気町議会議員)は、どうすればその世界が良い方向にいくかという大局観でものを見ているような部分があります。例えばフィロソフィーの「相手の立場に立って考える頭を1割だけ持つ」は、僕が色んな苦労をした結果としての、日常ではなくもう少し長期的な視野で人生を幸せに導きたいという観点から生まれたものです。

菅生:フィロソフィーは、育児にも通じる部分がありますね。

社長:仮に20歳で子供が成人するまでと考えても、20年間もある。だからそのなかで、押しつけではない子供の育て方もあるのではないかと模索してきました。例えば、当時大学受験を控えていた長男に、将来のことを考えて株を譲渡しようとしたことがありました。日経平均が下がっていたので、譲渡するなら良いタイミングだと思ったのです。譲渡するには本人の同意が必要になるのですが、税理士さんには「このことで動揺を与えてしまって、受験がうまくいかなかったらどうするのですか」と止められました。だけど僕は、この株の譲渡がどのような意味をもっているのか全てを長男に説明しました。もしかしたら意図を隠すのが世間一般の常識かもしれませんが、そういうことはやらず、その事実を受け止められるような人間になった方がいいと思っているからです。

菅生:松浦社長の著書や発言をお伺いすると、人と人が対等である印象を受けます。

社長:そうですね。例えば、うちは交代勤務をしていないので、夜勤はありません。自分がやりたくないことを社員にはさせたくないですね。僕はほぼ1年間休みがないのですが、それは「休めない」のではなく「休まない」というスタイルを選択しているだけです。だから社員には、僕と違って有休をたくさんとってもらって構いません。テニスをするように、同じコートで、同じルールでやっていきたいのです。一方的に自分の考えを押し付けることには嫌悪感を憶えます。

「やらないでおこる不幸は、不幸のなかでも最も大きい」。
ビジネスは人間関係をうまくするための手段に過ぎない。

菅生:いつ頃から、そのような考えになられたのでしょうか?

社長:父との関係でしょうか。僕が16歳のとき、叔父が会社のお金を使い込んでしまったことがきっかけで、父が精神的におかしくなってしまった時がありました。今でこそ、うつ病とか普通に話せますけど、当時はすごくデリケートな問題で、僕自身が医者に話を聞きに行ったんです。そうしたら医者は「お父さんの精神は張りつめた糸のようなもの。どんどん巻いて行けば切れる。その切れた糸はもとに戻せない」と言われて、すごく怖くなってしまいました。今から思えばそんなことはないのですが、私たち家族の言動が父の糸を切ってしまうトリガーになることが怖くて、父を腫れ物のように扱って過ごした1年がありました。その後、叔父が私たちのビジネスから離れたときに、それが一番父を嫌いになった理由なのですが「いままでの(自身の)言動は、弟(社長にとっての叔父)を切るためにやっていた」と言ったのです。僕にはそれが決して本当だとは思えませんでしたが、仮に演技だとしても、僕たちの青春を巻き込んで暗くしてしまったという事実がある。その後、叔父は自分でビジネスを始めましたがうまくいかず自殺してしまいました。その時に僕は思ったのです。「やらないでおこる不幸は、不幸のなかで最も大きい不幸である」と。最善の努力をし続ける必要があると思いました。僕にとってビジネスは、人間関係をうまくやるための方法でしかなくて、お金を儲けることが立派なわけではないと思っています。

社員も自身も「行きたくなる会社」にしたい。
大切なのは社員のプライド。自己犠牲は、プライドではない。

菅生:「ビジネスは人間関係をうまくやるための方法」という話が出ましたが、万協製薬様では毎日社員のみなさんが楽しく来られるような人間関係を築かれる取り組みをされています。

社長:最初はみんな戸惑うんじゃないですか? みんなで飲みに行っても会社がお金を出してくれるとか、海外旅行にお金を出してくれるとか(※同社には「プチコミファミリー」と呼ばれる、グループで食事会や旅行を自由に企画できる制度がある)。昔は全員参加の社員旅行をしていたこともあるのですが、食事の度にみんなが僕のところにお酌をしにきたりすると、僕自身もしんどい。だから社員も、僕自身も行きたくなるような会社にしたいんですね。フィギュア博物館(http://www.bankyo.com/figure/)も、その一貫です。社員は僕が博物館にいるときは機嫌がいいから、そこにいるときを狙って提案書をもってきたりします(笑)。

菅生:そうなんですね(笑)

社長:最近、僕が社員によく言っているのは「お客様に優しくし過ぎるな」と。違うと思うのなら、違うといいなさいと言っています。君たちはお客様の奴隷ではないし、僕は奴隷を雇っているわけではない。もし何かあったら僕がその責任をとるといっています。プライドこそ、社員に一番大切なこと。自分が犠牲になるようなものは、プライドじゃないと思っています。

菅生:社長がおっしゃられた「長期的な幸せ」ですね。今回のインタビューもそうですが、webやマスコミを通して各所で発言をされているのはどうしてなのでしょうか?

社長:父との話でもそうですが、僕は議論がしたい。異論や反論があってもいい。その議論を経た結果で前へ進めると、寂しくないんじゃないかと思うんです。どんな苦難でも、和らげて前へ進めるという仮説ですね。それに僕はいま経営者だけど、100年とかして僕の発言が哲学者みたいに取り上げられたりしたら面白いなと。僕のような中小企業の社長って、飲み屋で女性と楽しんでいるようなイメージがあるかもしれませんが、僕はやりません。それは記録に残らないから。カラオケも、カラオケをやるくらいなら、自分で作詞作曲をしてCDを出した方が世の中に発信できる。

社員研修は組織にとっての筋トレ。
負荷がかかるけど、結果的に組織としての基礎代謝があがる。

菅生:社長がよくおっしゃられる「人を大切にする会社」というのは、すごく共感するし、そういう会社が増えたらいいなと思います。でも、その一方でそういう考えでうまくいく部分と、いかない部分もあるのじゃないかなと想像します。もしかしたら、それをやらないことでもっと業績アップするかもしれないと考えたことはないですか?

社長:それは僕も以前考えたことがあるのですが、筋トレだなと思いました。

菅生:筋トレ?

社長:筋トレって、負荷をかけてより健康な状態をつくりますよね。社員に教育プログラムを受けさせることでお金が出ていくというのが負荷です。やってみて、それが合わなければやめればいい。負荷をかけることで、結果的には基礎代謝があがって組織力があがる気がします。無理をして投資する必要はなくて、やれる範囲でやればいい。例えばうちは海外旅行を今は認めていますが、お金がなくなったら国内旅行にするのだっていい。筋トレの強度を変えるのと同じです。社員の教育にかけるお金がないのであれば、一冊の本をみんなで読むことだっていいのではないでしょうか。

理想はあっても、実現できない経営者へ。
「社員の成長が会社の成長になる」というシンプルな公式を信じてみよう。

菅生:多くの企業のみなさんは、社長がおっしゃられるようなことは頭ではわかっていても、実際に実現しているようなところはすごく少ない気がします。

社長:それは「告白していない恋と同じ」ですね。告白した上で片思いならいいですけど、告白していない恋は単なる空想ですからね。だから「できない」ということには2つの意味があって、「やらない」という意味と、「できない」の意味がある。

菅生:もっとひどい場合には、社員は消耗品という方もいらっしゃいますよね?

社長:僕はそういう経営者に対しては、社員を使い捨てにするほどあなたに能力があるんですか?と問います。社員を育てることに意味がないと思っている経営者がいるとしたら、まずはその考えを改めるべき。すべての仕事は「人」がやっています。会社から大事にされていない人間が、お客様を大事にするでしょうか? 社員がこき使われている現場にいて、その社長は心地いいんでしょうか? 今の世の中の色んなことを考えたら、そんなことをいうのは難しい。「社員の成長が会社の成長につながる」という、シンプルな公式を信じることですね。それが信じられないなら、一人で会社をやればいいんですよ。そうすれば自分を育てるためだけにお金を使うことができる。まずは経営者自身が、自分にとって社員とは何かを問い続ける。子育ても同じかもしれません。自身にとって、我が子とは何かを考え続けることが、その人自身の成長にもつながるような気がします。そういう風に、真っ直ぐに自分自身に問いかけることを私たちは最近忘れてしまったのかもしれませんね。僕だって完璧な答えを持っているわけではなくて、考えながら、よりベターな方法はこうじゃないかと言っているに過ぎません。父が最後に「欲も徳もない」といったことには驚きましたが、僕は欲も徳もとりたがっているのかな。いつも会えば喧嘩をしていたけれど、最後に会った時は父のその言葉に驚いて喧嘩もしなかった。最後に会えて良かったなと思う。父の使っていた湿布をもらってかえろうとしたら「それはワシのや」って言って怒られました。告別式のあとに、もういらんかな……と思って持って帰ってきました(笑)

経営者は「最も深く人生を考え、自らをさらけだしている人間」。
400万の人が真剣に考えれば、すごい力になる。

菅生:身近な家族とか、社員とか、地域の人が幸せになることで、少しずつベターになっていけばいいですよね。

社長:そうですね。会社は、そういうことを広げやすい仕組みですね。日本に400万の会社があると言われていますけど、その400万の経営者が考えればすごい力になると思う。僕は会社の社長は、特に“日本の中小企業の親父”というイメージは金儲けのことしか考えていない感じがあって、コンプレックスを感じていました。だけど、僕は同じ経営者のみんなに言ってるんです。「僕たちは最も深く人生を考え、自らをさらけ出して生きている人間なのだから、こういう人たちが尊敬されるような社会にしましょう」と。そのためにはまず教育から変えましょうと。

菅生:奥様が町議会議員になられたことで変わったこともありますか?

社長:僕は彼女が政治家になったことで、いろんなことを知りました。彼女の言動で勇気を持った人は、何百人もいるんじゃないかな。社長や政治家というと良くないイメージもあるのかもしれないけど、立場が人を救うこともある。社長に何を言っても変わらない、議員に何を言っても変わらないと思っていた人が、話を聞いてもらったり、何かを言ってもらったりすることで「こんな人もいるんだ」と。

おせっかいを恐れないで。
誰かの助けになれることを、喜べる社会に。

菅生:いまの世の中では「相手のことを認める」とか「誉める」ということを一生懸命やっているような気がするのですが、社長にお話を伺っていると万協さんの世界は、もう一歩先に進んでいるような気がします。お互いを応援しているような印象を受けます。

社長:社員は誰かの助けになるようなことを喜んでいるような気がします。人はおせっかいになることを恐れますが、おせっかいになってもいいんじゃないですかね。

菅生:本日は、貴重な話をありがとうございました。
(2017年10月29日 インタビュアー:菅生としこ)